緑内障はどんな病気?

目と脳をつなぐ神経(視神経と言います)は正常の方の場合120万本の神経線維(軸索)があり、人の体の中で最も神経線維の数が多いものです。この視神経が萎縮して数が減ってくると視野が欠け、最終的には視力が落ちて失明に至ります。この視神経が萎縮する病気はいくつかありますがその中で最も頻度が高いのが緑内障で40歳を超えると日本人の5%(20人に一人)がこの病気にかかります。日本にはおよそ400万人の患者さんがいるといわれ、身体障害者手帳の発行状態を調べると、日本人の失明原因のおよそ1/4を占めており、日本人の失明原因の第一位です。日本は世界的に見ると失明の少ない国で欧米の半分ぐらいの割合ですが、それでも失明された方(良い方の視力が0.1以下)は2007年に18万8千人いるといわれその1/4が緑内障ですから4万人ぐらいが緑内障で失明していることになり失明率は4/400で1%程度であろうと推測されます。

目の模型図

目の模型図:瞳から入った光はレンズで屈折され、眼球の内側に張り付いている網膜という神経組織にあたり、ここで光が活動電位という電気信号に変換され、これが網膜の表面を走る神経線維に伝わり、これが眼球の最後部に集まって束となって眼球の外に出て脳の外側膝状体という神経核につながります。この神経線維が萎縮して減っていくと視野が欠けたり、見えなくなったりします。

緑内障による視野の欠け方

2014-10-11 院長がNHK e-テレビに出演した時のスライドより(実際には黒く見えるわけではありませんが、黒いところの像が無くなります)

緑内障による視野の欠け方

緑内障の治療

緑内障で視神経萎縮が起こる原因のうち最も重要なのは眼圧(眼の内圧)で、治療としては眼圧を下げることが第一目標です。眼圧の下げ方は緑内障のタイプによって異なり、隅角と言われる部分が開いている場合はまず目薬が投与され、それで下がらない場合は手術が考慮されます。隅角が閉じている場合はレーザーや白内障手術でレンズを除去することによって隅角を開放することが最初の目標です。それで眼圧が下がらない場合は目薬や緑内障手術が考慮されます。

眼圧が低いにもかかわらず視神経の萎縮の進行が進む場合は循環障害や酸化ストレスの抑制剤(サプリメント)、あるいは向神経性のビタミン剤などが投与されます。

なぜ失明してしまうのでしょう

緑内障は早く見つけて適当な治療を行えば、簡単には失明に至るようなものではありません。しかし、重症であったり、治療が遅れたりすると失明することがあります。

緑内障の中には非常に重症で、通常の治療法では眼圧のコントロールができない難しい目があります。このような難しい目に対して私たちは1986年に日本で初めてインプラント手術を導入し、1987年にはその経験を日本眼科学会の機関紙である日本眼科学会雑誌に発表しました。この手術はその後種々の改良がおこなわれ、2012年になって保険収載されるに至りました。この手術は比較的手技が難しく2018年現在でも全国で約150施設ぐらいしか行うことが出来ず、当院では200件以上の実績があり、近畿では最大の手術件数です。2012年の国の認可以後この手術は当院の看板手術と言ってよい手術になっています。

※ 千原悦夫他:日本眼科学会雑誌(1987) 91巻:1086頁:Setonと5-FUによるneovascular glaucomaの治療について

2012年以後は難治性緑内障になった患者さんのうち、かなりの方がこの手術によって失明から逃れることが出来るようになりました。
しかし、それでも失明する人はゼロにはなりません。失明が減らないもう一つの理由は、病気になっていることに気づかず、治療の開始が遅れることです。慢性型の緑内障は自覚症状に乏しいので自分が病気であることに気づかないのです。

次のスライドをご覧になってください、人の脳には欠けた視野を周囲の景色で補充する機能があり、視野が欠けていることを分からないように修飾します。この機能は不自由をオブラートで包むように緩和してくれますが、一方では知らないうちに末期になってしまう原因でもあるのです。

緑内障による視野の欠け方

(図の説明)緑内障による視野の欠け方 2014-10-11 NHK e-テレビ出演時のスライドより:
像の欠けているところは人の脳の高次機能によって周りの形式が続いているように錯視を起こすようになっています。視野欠損部には周囲の景色が埋め込まれ、ワンちゃんを連れている人が消えて見えます。これを視野の補填現象と言い、このために視野が欠けていることが自覚できないのです。

別の話題ですが、緑内障の手術に関して当院では2015年ごろから新しい手術が導入されました、それはMIGSと言われる手術で傷口が小さく、視力に影響を与えにくいことが特徴です。初期の緑内障の治療がずいぶん楽になりましたので、今後はこの手術が普及してゆくことと思われます。
このMIGSについては大変成績が良いということをお話ししていましたところ日本で最も権威のある学会である日本眼科学会総会の2019年におけるシンポジストとして招請され講演しました。

講演する千原院長

講演する千原院長